関大前の家を設計するにあたって
『新建築・住宅特集』1988年1月号掲載
依頼主
住人は私と家族、妻と小学生の2人の男の子たち。私は「売れない建築家」であり、結構自由時間を持っている。妻はインテリアコーディネーターで、人を招いてもてなすのが好きだ。男の子たちは、釣りと野球、サッカーに興味を持ち、一日中動きまわっている。そんな私たちが昭和30年頃にできた住み慣れた平屋の家を壊し、新しい家をつくることになった。家の設計はもちろん専門家の私が独断でやることになる。だいたい常に妻や子と接しているので、彼らの望んでいる生活なるものはすべてわかっている。
場面の展開を演出する
そんなわけで、最初のイメージは900mmピッチに開口のある6枚の壁でできた家である。
壁は3枚一組で平行に配置され、3,600mm幅の部屋空間と1,900mm幅の通路空間をつくり出す。これは多様な場面の展開を演出する骨格となる。
長い空間と展開する場面。都市のように複雑で意外性に富んだ場所を家の中につくり出してみたかった。家は、それぞれ階段を持つふたつの棟によって構成され、内部に前の広場、光庭などの屋外空間を取り込んでいる。家はエンドレスに動きまわることができる。実際、わが家は子供たちにとって鬼ごっこをする格好の遊び場である。
この家は人の動きに沿って展開する場面の演出を意識して計画した。動きの出発点のひとつは、前の広場横の階段から始まる。階段を上がると前の広場が見えるブリッジを渡って玄関へたどり着く。玄関のドアをあけると長い視線が飛ぶことにより、家の中に展開する場面を予告する。ドアを入ると直ちに居間がある。
視線は光庭を通して、半円形の開口を持つ屋上テラスヘと広がる。もうひとつの出発点は、ゲートをくぐって入った前の広場から始まる。広場横のドアをあけると、わが家でもっとも長い空間のギャラリーがある。
ギャラリーは900mmピッチに開口のある壁によって、フリースペースとやわらかく区切られている。ここは子供たちが雨の日のキャッチボールに使っている。
住んでみて
住みはじめて早くも半年が経ちました。食堂から見る夕日の美しいこと、夏の風通しのいいことが最高です。とにかくわが家は開口だらけ、家の中を風やら子供やらが駆け抜けていきます。みちを駆け抜けていくように。